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は、薬物治療でも、再潅流治療でも生命予後に大差はない。二枝病変でも治療による生命予後の差は明らかではないが、心機能の低下した症例、左前下行枝に有意狭窄を有する症例では、CABG、PTCAなどの再潅流治療を行った方が予後は良好である。三枝病変および左主幹部病変例は通常CABGの適応である。

 PTCA、CABGなどの再潅流治療を行う場合には、再潅流を行う領域の心筋が十分生きていることが必要である。心筋の状態は冠動脈造影と同時に行う左室造影所見、あるいは心電図所見から判断するが、その両者の所見からは再潅流治療の適応無しと判断されるような症例でも、核医学検査によって、心筋が生きていることが確認され、実際に治療によって心機能が改善する症例もある。これは、冠動脈造影、左室造影所見のみで治療方針を決定することの限界を示している。したがって、冠動脈造影を行った症例の治療方針決定に際しては、単に冠動脈の狭窄所見のみでなく、心機能、自覚症状なども考慮することが必要である。

(2)核医学検査

心筋の虚血あるいは壊死を判断する際には、201T1−SPECTが有用である。201T1は血流があり、心筋細胞膜のNa−K ATPase活性が保たれている心筋に取り込まれる。心筋虚血の判定には、運動負荷心筋シンチグラフィにより、運動直後および4時間後にSPECT像を撮るのが一般的である。201T1のかわりにMIBIが用いられることもある。また、心筋壊死は201T1−SPECTによる安静時像および4時間後の再分布像から判断する。このほか、MIBG、BMIPPなどの核種も心筋の状態を把握するために使用される。

PTCA、CABGなどの再潅流治療を行った症例では、冠動脈の所見はわかっているわけであるから、新たな心筋虚血の出現およびその重症度は核医学検査で十分確認できる。したがって、虚血性心疾患症例の経過観察には核医学検査を利用することが必要であり、侵襲的検査である冠動脈造影を安易に繰り返すのは好ましくない。

(3)運動負荷試験

虚血性心疾患における運動負荷試験は、早期診断、心機能の評価、治療効果や予後の判定、リハビリテーションなどを目的として行われる。

運動負荷時の虚血性心疾患患者の呼気ガスを集めて測定されるAnaerobic Threshold(AT)は、運動耐容能の指標として有用である。ATは、一定量以上の運動負荷によって運動筋への酸素供給が不足し、好気的代謝に加えて嫌気性代謝が進んで血中乳酸が蓄積してくる時点であり、酸素摂取量と換気との直線性がなくなった時点での酸素摂取量である。

運動負荷時の呼気ガスを分析し、AT、その他の指標を検討することは、治療方針の決定よりは、むしろ治療後の効果判定、経過観察に有用であると思われる。

 

 

 

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